車輪の国、向日葵の少女


あかべぇそふとつぅより、車輪の国、向日葵の少女です。

本年度作品のダークホース?

シナリオは、あの泣き同人ゲーとして有名な「夏の燈火」の
佳葉シナリオを描いたるーすぼーいさんです。
泣けそうな雰囲気がぷんぷんしやがります。


では、早速感想です。

まずは、グラフィック。
ちょっと立ち絵の等身が低い?ような感じがした以外は、問題無し。
イベントCGの数も及第点。
出来自体は、素晴らしいと思います。


音楽は、日常シーンで、ちょびっと違和感を感じた
BGMがあった程度で、問題無し。
盛り上げるところをちゃんと盛り上げてくれます。
とくに感動シーンでのピアノ曲なんかは、
狙ってるのは分かってても涙腺直撃です。


で、シナリオ。
「泣き」に関してはかなり期待してはいましたが、
まさかここまで重厚なシナリオを用意してくれるとは思いませんでした。
まさに、ヒューマンドラマADV。

まずはその世界設定に驚き。
日本とは違う架空世界でのお話。
その車輪の国では、罪を犯したものは、何らかの義務を背負って生きていくことになります。
そしてその義務を監視し、管理するのは、特別高等人という人間。
主人公は、その特別高等人になるための最終試験場として、
故郷の田舎町に帰ってきます。

一見するとそんな馬鹿なって感じの設定なんですが、
この設定あってのこのシナリオであることが、
プレイすればするほど分かります。
昨今の設定倒れなシナリオが多い中で、
見事にこの奇妙な世界設定を生かしきった作品です。


本作品は5章構成となっています。
各ヒロインのルートは殆ど存在せず、
基本的に一本道で進み、選択肢によってエピローグのみが変わるタイプのシナリオです。
1章は世界設定とヒロイン達の状況説明と顔合わせです。

2章からは各ヒロインの義務を解消していきます。
各章だけでも、一つのシナリオとして完成されているといっても
いいぐらいの出来で、かなり満足です。

ではでは、各章の感想をば。





2章


2章は、三ッ広さちの「時間制限」の義務。
いやはや、いきなり泣かさせていただきました。。。

基本的に、楽して金を稼ぐことしか考えないさち。
(それは、時間制限のための薬の影響もあったわけですが)
子供の頃には、絵で受賞されるほどの天才的な絵の才能がありましたが、
盗作の疑いを掛けられ、それはさちのトラウマとなっていました。
それでも、義理の妹・まなが、南方の王国の客人に、
金で引き取られようという危機に陥った時に、ようやく絵を描き始めます。
しかし時間は無常にも過ぎ、絵は完成しませんでした。


・・・うお、思い出したら泣けてきた・・。
泣き度は、本作品中最も高いと思われます。

義理の妹のまなは、物凄くしっかりした子で、
反対に、さちは、雨が降ったから絵は描かない、
体調が悪いから今日は休むなど、言い訳をして、
絵を描くことが出来ないダメ人間として描かれています。



失って初めて分かる大切なものと、時間の大切さを知り、
成長したさちと、主人公。

まなが、家を出て行くシーンや、
クライマックスの、完成しなかった絵と、
さちとまなの掛け合いは、泣けてきます・・・。

他シナリオでも同じことが言えますが、
それぞれのシナリオ自体は、割とありふれたテーマなんですが、
この独特な、世界設定がシナリオを斬新なものにしています。

いや、もうホント、いい話や・・・。





3章



大音灯花の親の命令に絶対服従の義務、
通称「大人になれない義務」を解消します。

これは、灯花自身というよりも、灯花の置かれた複雑な家庭事情と、
母親・京子の問題が主となります。
テーマは、家族の絆。やはりありふれたテーマではありますが、
斬新に感じるのは、この世界設定が為せるものでしょう。


京子は、灯花の実の母親ではなく、父親の姉・叔母に当たる人間でした。
過去、両親に虐待されていたという灯花。
京子は、親権を両親から奪い、親子として暮らしていました。
「義務」は、その名残で、継続されていたものでした。
義務がなければ自分から離れていってしまうのではないかと、
危惧していた京子は、義務の取り下げを行うことが出来ないでいた、弱い人間でした。

自らの過去と京子の思いを知り、灯花は成長し、京子もまた成長しました。



・・・と、ここで、3章が終わりかと思いきや、まだまだ続きます。

義務の取り下げを申請したにも関わらず、解消されない義務。
それは、灯花の本当の両親が、親権を戻してもらいたいと願っていたためでした。

灯花のために、人生をやり直したという本当の両親。
京子と本当の両親とで心が揺れ動く灯花。
ずっと義務により自分の意思で物事を決めることが、
出来なかった灯花は、思い悩みます。

ですが、京子は義務としての命令で、
本当の両親に親権を移すように、灯花に命じます。




次の日は、京子の誕生日。
灯花は最後に自分の手料理で、母親に食べさせようとします。
しかしそこで明らかになる事実。
灯花の腕に残る火傷。
それは、料理中の不慮の事故ではなく、京子の虐待によるものでした。
それは、灯花と京子のトラウマとなり、
台所へ入ることを拒否していた理由でもありました。

自らの罪を思い出して・・認めた京子。
灯花の料理をぶちまけてしまいます。
京子の心の闇は、賢一が思うよりも深いものでした。



それでも、シチューをもう一度よそう灯花。

そして自分の決断を話します。
法律上は、本当の両親の親権となるけれど、ずっとここで暮らす。
そして本当の両親とも仲良くなって幸せになる。
誰よりも優しい灯花が、初めて出した結論でした。
誰かを選ぶのではなく、選ばないという選択肢。



うお、またしてもいい話や・・・。
どうみても家族愛です。本当にありがとうございました。





4章



4章はメインヒロイン、といってもいい夏咲の恋愛禁止の義務。
その義務は、異性との一切の接触を禁止するという厳しいものでした。

ここでは、賢一の過去も含めて解消されます。
過去、弱い人間だった賢一。(この頃はまだ樋口健)
唯一の心許せる存在であった姉が、都会にいってからは、
ずっと孤独に過ごしていました。
そんな中、向日葵畑の中で出会った少女・夏咲。

何気なしに、少女のリボンを似合っていると褒めた健は、
夏咲と仲良くなります。
夏咲のおかげで、学校へも行くようになれた健。



幼少の頃を思い出し、誰よりも明るかった少女の現状を嘆く賢一。
夏咲は、冤罪により3ヶ月間にも渡る尋問によって、
強制的に自白され、恋愛禁止の義務を背負ってしまいました。
夏咲が、極端に他人と接するのを拒絶するようになったのはそれが原因でした。

進展しない義務の解消。
賢一は、自分が、過去の幼馴染である健だということを、
打ち明けることにします。
ですが、変わってしまった自分を健にだけは見て欲しくなかったと、
泣き出してしまう夏咲。

また、法月から両親の死や、自分が抱いている賢一への好意が、
義務の解消と、賢一が特別高等人になることへの妨げとなっていることを、
認識させられます。



しかし賢一は、子供の頃、夏咲に救われたように、
同じ言葉を夏咲に伝えます。
自殺することは止められましたが、未だ夏咲は、他人を拒絶し続けます。

それでも健にそばに居て欲しいと想う夏咲。
賢一は、義務を破り、夏咲を抱きしめます。




法月に意思の試験を強いられ、合格した夏咲。
しかし、義務のバッジには、盗聴器が仕掛けられ、
義務を犯したことは、法月には筒抜けでした。

夏咲は、自分から触れたと言います。
そして、健のことが好きだと叫びます。
それは、子供の頃の笑顔が戻った時のようでした。




とここまでが4章です。

ん〜恐らく一番力を入れた章だとは思いますが、
個人的には2,3章のが好きですかね〜。
ちょっと詰め込みすぎな感もありました。

4章はそのまま5章へ続きます。





5章



賢一が特別高等人を目指した理由。
それは、極刑を受けた姉・璃々子を取り戻すためでした。

この国における極刑は、通称・世界から存在を認められない義務。
他人と目を合わすことも、触れることも、言葉を発することも許されない義務。

で、この義務が、実は物凄い伏線になっています、この作品。

察しが悪い僕は、璃々子が出てくる直前の、
磯野と、賢一の会話で、ようやく気付きました。
ん〜最初に、極刑の義務の内容が分かってれば気付いたかも・・・。
たしかに?って思う箇所がところどころあったんですよね〜。
って普通だったら、気付いちゃうからダメか・・・。

とにかくやられました。
なんと璃々子は、冒頭夏咲と再会した時から、ずーっと賢一の背後にいました。
そして、賢一の独り言は、ユーザーにではなく、璃々子に向けられた言葉でした。
それは姉が寂しくならないように。



くぅ〜重厚なシナリオだけでもお腹一杯なのに、
こんなトリック染みたことまでやってくれるとは思いませんでした。

なんというかギャグ面もそうなんですけど、
るーすぼーいさんの文体が全体的に、
垢抜けてきたというか、すごく洗練されてきた気がします。

そこからはの展開は、多少ご都合主義なれど、熱い展開。



監禁されている夏咲。
3日後には、断頭台による公開死刑が行われてしまいます。

国家に反逆することを決意した賢一は、
磯野、そして璃々子の協力を得、夏咲を救うために奔走します。
まずは、さち、灯花を救出。
そして、3日後の公開処刑に合わせ作戦を立てます。



公開処刑日。
さちが描いた平和を象徴する向日葵の絵とともに、
璃々子の演説が始まります。
現在の義務による社会の問題。
内乱によって死んだ人々の遺言。
その後も、灯花と璃々子の入れ替わりで時間を稼ぎ、
賢一と法月でのサシでの対決となります。
どうにか銃を裁いた賢一でしたが、
法月の引きずっていた足は実はフェイクで、
賢一は敗北を喫します。



磯野以外の5人は、監獄へ入れられます。
その中でも法月は、璃々子へ執拗に、暴力を奮い、
賢一の心を挫こうとします。
1ヶ月も立った頃、賢一は、クスリが切れ、禁断症状が現れ始めます。
もう限界に達し、法月の元に跪こうとします。
鎖を外された賢一。
しかし、賢一の禁断症状はフェイクでした。
法月が、足が不自由なように見せかけていたように、
賢一は、クスリをやっているように見せかけていました。

それにより法月に勝利する賢一。



5人は脱出し、洞窟へ辿りつきます。
7年前に、自らが町を脱出した経路を使用することを考えていましたが、
その通路は、岩盤崩れにより、封鎖されていました。

残る脱出経路は30m強の竪穴。
絶望に囚われる5人でしたが、そこに一本の梯子が。
上で待っていたのは、磯野。
この1ヶ月間、洞窟を探索し、脱出経路を組み上げていました。

さち、灯花、夏咲、それぞれが地上に脱出し、
満身創痍の璃々子を背負い、賢一が梯子を登ろうとします。
しかし外される梯子。上からの返答はありません。何かあったに違いない。

その確信はありましたが、賢一は、自らの力で竪穴を登ろうと決意します。
7年前の内乱。逃げ出した自分。
二度と繰り返す訳にはいかない。仲間を救うために。

麻痺する右足。崩れ落ちる岩壁。
瞳を閉じて誰かを想う。叱咤し、応援する璃々子。
視界に入る、地上の光。



そこには、7年前と同じように法月将臣が立っていました。

そして告げる。

登りきっても、暗い未来が待ち構えていると知っていてなお、真っ直ぐに進んできたか。
もはや、お前に教えることない。

守破離を達した賢一。
法月はメモリーカードを賢一に返し、去っていきます。

そしてここからは、スタッフロール&エピローグ。
選択肢によって変わってきます。



璃々子シナリオでは、大統領として立候補する賢一。
その他ルートではそれぞれヒロインと幸せな日々を過ごします。
中でも、お約束のさちとまなの再会は、分かってても泣けてきますよ・・・。

また、それ以外にもハーレムエンド(優柔不断エンド)もあります。
こういうエンドは基本的に好きじゃあないんですが、
賢一の場合は許せてしまうのは何故でしょうかね。

特別高等人候補生として厳しいことも言いますが、
基本的に、ものすごく優しいいいヤツですからね、主人公。
言動が不安定なこともありますが、そこはご愛嬌。
ギャグ面も面白く、一方エッチ関係の話が苦手と、
中々個性的で、好印象の主人公でした。
付き合う付き合わないに関しても、一途でいいですね。

ぶっちゃけカッコイイねっ!そしてハードM。




と、ただシナリオを追っただけの感想でした。





総評




で、総評ですが、
非常に独特な世界設定を存分に活かした、
笑い、燃え、泣きありの重厚ヒューマンドラマ。
恋愛部分に関してもそれがメインではないにも関わらず、
しっかりと賢一が好きになる、惚れられる経緯が描かれてます。
ってかありゃ惚れるね、うん。

ってことで、名作認定。


キャラも良かったですしね〜。
3人のヒロインはそれぞれ魅力を持ってますし、
物語の始まりと終わりで、成長しているのが分かり、
みんないい女になってます。

そして最高なのが、璃々子。
その驚愕の登場と共に常に高いテンション。
幼少時代の灯花との絡みとか最高w(ぶっ殺すぞっ!とか)
3章開始時の蝋燭攻めとかも最高w
多分ハードS。
かなりお気に入りです。

・・・いかん、Mに目(ry